成年後見制度を利用した人が一部の職業に就けなくなる「欠格条項」
こんにちは、福岡県久留米市 おちいし司法書士事務所の落石憲是です。
警備員の仕事をしていた軽度の知的障害がある方が、親族に預金を使い込まれる被害を受けたため、成年後見制度の利用を始めたところ、警備業法の「欠格条項」に該当することになり、退職しなければならなくなったそうです。
「欠格条項は障害者に対する差別で、法の下の平等などを定めた憲法に違反している」として、国に対し損害賠償と警備員として働く権利を認めるよう求めて裁判を起こすことにしているというニュースがありました。
成年後見制度は障害や認知症などで判断能力が十分でない人に代わり弁護士や家族などが財産を管理する仕組みですが、制度を利用した人は地方公務員法や建設業法などおよそ180の法律の「欠格条項」によって定められた職業に就けなくなります。
「欠格条項」とは、「公的な資格・免許・許認可を受けるにあたって、事前に排除されるべき条件を規定するもの」という意味ですが、
ニュースの記事によると、約180もの法律で成年後見制度を利用した人はその職業につけないと定められているそうです。
具体的にどんな法律に規定されているかは、コチラをご覧ください。
⇒http://www.cao.go.jp/seinenkouken/iinkai/9_20171201/pdf/siryo_2.pdf
司法書士にも欠格条項があります。
司法書士法第5条(欠格事由)次に掲げる者は、司法書士となる資格を有しない。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者
三 破産者で復権を得ないもの
四 公務員であつて懲戒免職の処分を受け、その処分の日から三年を経過しない者
五 第四十七条の規定により業務の禁止の処分を受け、その処分の日から三年を経過しない者
六 懲戒処分により、公認会計士の登録を抹消され、又は土地家屋調査士、弁理士、税理士若しくは行政書士の業務を禁止され、これらの処分の日から三年を経過しない者
また、株式会社などの取締役や監査役も、成年被後見人や被保佐人になると、役員を退任しなければなりません。
会社法第331条(取締役の資格等)
次に掲げる者は、取締役となることができない。
一 法人
二 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱われている者以下省略
成年後見制度を利用した人が一部の職業に就けなくなる「欠格条項」については、現在、内閣府の成年後見制度利用促進委員会で見直しも検討されています。
「成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度の見直しについて(議論の整理)(案)(平成29年12月1日成年後見制度利用促進委員会)」
1.基本的考え方
〇「成年後見制度の利用の促進に関する法律」においては、成年被後見人等が、成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳を重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきとされている。
〇また、「障害者の権利に関する条約」においては、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとされている。
〇一方、成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度(いわゆる欠格条項)については、
- いわゆるノーマライゼーションやソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を基本理念とする成年後見制度を利用することにより、逆に社会的排除という影響を被ることになるのではないか。
- 民法上の事理弁識能力は、財産管理能力を基準として評価がなされるものであるところ、多様な法令に基づく多様な資格や職種、業務等に求められる能力とは質的なずれがあるのではないか。
- 同等の事理弁識能力であっても、成年後見制度を利用している者のみが各資格・職種・業務等から一律に排除され、能力を発揮する機会が失われているのではないか。
- 欠格条項の存在により、成年後見制度の利用を躊躇する影響が出ているのではないか。
といった問題点が指摘されている。
〇以上を踏まえ、今回の見直しにあたっては、成年被後見人等の一律排除の規定を設けている各制度について、個別的、実質的な審査によって各資格・職種・業務等の特性に応じて判断する仕組みへの見直しを行うべきである。
〇 なお、現行制度を見直すことによる影響については、特に、依頼者等を含めた第三者保護の観点も踏まえ、各資格・職種・業務等に求められる能力を確実に担保する観点から、法制的・実務的に対応することが必要であると考えられる。
⇒http://www.cao.go.jp/seinenkouken/iinkai/9_20171201/pdf/siryo_1.pdf
会社の役員さんが成年後見制度を利用される場合は、役員を退任することになりますので、変更登記が必要になります。
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