おちいし司法書士事務所@福岡県久留米市のブログ

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赤ボールペンで斜線を引いた手書きの遺言

こんにちは、福岡県久留米市のおちいし司法書士事務所の落石憲是です。

 

先週、最高裁判所で手書きの遺言(自筆証書遺言)に関する判決が出ましたので、

ご紹介します。

(新聞報道などでご存じかもしれませんが。)

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  • 父親が大半の資産を息子に相続させると遺言に書いて、封書に入れて金庫に保管していた。
  • その父親が亡くなった後に封書が見つかった。
  • その遺言は、封は一度開いた後にのり付けされていたうえ、中に入っていた遺言書には赤いボールペンで文書全体に左上から右下にかけて斜線が引かれていた
  • この手書きの遺言(自筆証書遺言)に書かれた赤ボールペンの斜線は、「破棄を意味するのか?」が争われました。

 

地裁と高裁では、

斜線が引かれた後も本件遺言書の元の文字が判読できる状態である以上,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段により遺言を撤回したものとみなされる「故意に遺言書を破棄したとき」には該当しないとして,上告人の請求を棄却すべき

としました。

判決文は裁判所のホームページにあります

 

民法第1024条
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。 

 

しかし、最高裁では、

民法は,自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について,それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には,968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で,それが遺言書の破棄に当たる場合には,遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして,前者は,遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから,遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば,民法968条2項所定の方式を具備していない限り,抹消としての効力を否定するという判断もあり得よう。ところが,本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は,効力を有しない。 

判決文は裁判所のホームページにあります

 

民法第968条

  1. 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
  2. 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

 

この事例からいえることは、

手書きの遺言をなかったことにする(撤回する)つもりなら、

赤ペンで斜線したものを手元に残さず、

破って捨てておくべきということ!

そうすると、子どもたちがけんかする(裁判する)こともなかったかもしれません。

 

なお、公証役場で作った遺言(公正証書遺言)の場合は、

手元にある遺言の正本や謄本を破って捨てたとしても、

公証役場には原本が残っていますので、

遺言を撤回したことにはなりません。

 

公正証書遺言は、

  • 撤回する旨の遺言を書く
  • 前の遺言と矛盾する内容の遺言を新たにつくる

などしなければ、すでに公証役場でつくった遺言は有効ですので、

ご注意ください。

 

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